GEMNIBUS

統括プロデューサー 栢木琢也

Interview

統括プロデューサー
栢木琢也

実験的で挑戦的な新しいエンタテインメントを目指すGEMSTONE Creative Label。東宝が若きクリエイターに提供する「フォーマット、メディア、そして実績の有無を問わず、クリエイターが自由に才能を発揮できる」場です。この制作レーベルの下、動き出したオムニバス短編映画のプロジェクト、GEMNIBUS のvol.2が3月6日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷にて1週間限定公開されることに。プロジェクトリーダーである栢木琢也プロデューサーに、壮大な夢と実践力を秘めたGEMSTONE Creative Label の立ち上げやコンセプトについてうかがいました。

GEMNIBUS vol.2は、増田彩来監督『青い鳥』、大川五月監督『You Cannot Be Serious! /ユー・キャノット・ビー・シリアス!』、村上リ子監督『顔のない街』、西山将貴監督『インフルエンサーゴースト』、関駿太監督『ソニックビート』、土海明日香監督『もし、これから生まれるのなら』の6本の短編のオムニバス。幻想的なロードムービーから、SF、ホラー、サスペンス、アニメーションと多様な作品を楽しむことができます。まずは、GEMSTONEがスタートした経緯からうかがいます。

2019年当時、YouTubeにクオリティの高いコンテンツが増えたのを機に、そこで活躍するクリエイターを発掘・育成するために始めたオーディション・プロジェクト「GEMSTONE クリエイターズオーディション」が前身となります。全6回オーディションを行いましたが、そこで出会ったクリエイターと、東宝が全国公開できる作品を生み出すには至りませんでした。その後、コロナ禍に突入し、プロジェクトを終了するかという話も出ましたが、そのタイミングで私がプロジェクトリーダーを拝命し、以前から「クリエイターへの投資がとても重要」と考えていたことから、オーディション形式から「共に作品を創り上げるプロジェクト」への転換を役員に提案しました。こうしてGEMSTONEの名称を継承しつつ、GEMSTONE Creative Labelとして新たなスタートを切りました。GEMNIBUSは、GEMSTONEとオムニバスを掛け合わせた造語で、今回、vol.2を公開します。

写真から映像になったとき、制作意識は変わりましたか?

写真は瞬間、映像は時間。これは事実であり、大きな違いだと思っています。写真家として大切にしていることは、静止画の中に「動」を写すことです。一瞬は、それだけで存在しているわけではなく、必ず前後の時間を背負っています。だからこそ、その流れを感じさせる瞬間を、写真の中に写せたらと考えています。
映像作家として大切にしていることは、時間の中にある「波」をどうつくるかということです。写真はその波の頂点や谷といった一瞬を切り撮る表現ですが、映画はその波そのものを映し出していく表現だと考えています。その波を、どう映像として立ち上げていのか。それはこれまで経験したことのない試みだったので、脚本づくりはたくさん悩みました。

GEMNIBUS vol.1のスタートは、2023年くらいかと思いますが、当時入社5年目の栢木さんにプロジェクトが任されたのは、どんな期待感からだと思いますか?

期待感は分かりませんが、才能への投資に理解のある社長の松岡宏泰とアニメ事業を推進してきた専務の大田圭二が、プロジェクトを後押ししてくれていることが非常に大きいです。

GEMNIBUSのプロデューサー陣は、どのようなメンバー構成なのでしょうか?

大体、入社10年以内の社員から、挙手制で希望者を募りました。もともと映画企画部やTOHO animationで映画やアニメをプロデュースしている人間もいますが、バックオフィスで働いている者もおり、全員が、プロデュース経験があるわけではありません。GEMSTONEは社内副業制度の枠組みで行っているので、メンバーのプロデュース業務は、本業と兼任しながら、バランスをとりながらあたってもらっています。メンバーの所属部門も、このプロジェクトをポジティブに捉え、応援してくれていると思います。

GEMNIBUSとして短編を製作しての手ごたえはいかがでしたか?

短編といっても、やることはほとんど長編と変わらないので、プロデューサーとしては、一通りの流れを、身をもって知ることができます。東宝の多くの若手プロデューサーは、アシスタントプロデューサーとして先輩プロデューサーにつきます。
私もアシスタントプロデューサーとして作品を担当したことがありますが、失敗しても、先輩がなんとかしてくれるという甘えが出てしまう。GEMNIBUSでは、自身の行動の結果が直接的に現れるため、主体的に責任を負い、最後までやり遂げる環境にしたいと考えていたので、それは実現できたと思います。

バジェットの大きい作品の場合、制作本数も限られるでしょうし、重要なところはベテランのプロデューサーが進めることになると思います。GEMNIBUSは、クリエイターだけでなく、若手プロデューサーの鍛錬の場でもありますね?

私は30歳ですが、漫画の編集者や、テレビ局のプロデューサーとして活躍している同世代を見ると、既に独り立ちしており、複数の作品を担当しています。漫画は読み切りなど連載以外にも枠があるし、テレビは深夜帯のドラマ枠がある。一方で映画は枠が少なく、相対的に映画プロデューサーは遅咲きの傾向があると感じています。他業界との競争に打ち勝つためにも、GEMNIBUSをスピーディーな企画・プロデュース経験を積める場にしたいと考えています。それに、バックオフィスに所属している若手社員が、プロデュースを経験しているという状況は会社としても強みになると思っています。

米国では、財務出身や、弁護士出身のプロデューサーも多いですよね。

全員若手なので、ベテランの方に比べるとプロデューサーとしてのスキルは当然低いと思うんです。様々な部署の人間が集まっていることでプロデューサーだけでは持ちにくい視点やアンテナを持つ組織になれているのかなと思っています。

オリジナルに絞って短編映画製作を行うわけですが、企画の選び方のポイントを教えてください。

すごく難しい質問です。選定基準が私だとすると、企画の内容で選べば私の趣味が出ますし、私が間違えたらプロジェクト全部が終わってしまう。だから各プロデューサーが「絶対にこの人とやったほうがいいです」と最後まで言い切れるかどうかを軸にしようと決めました。せっかく個性の異なる若手プロデューサーが複数いるので、そのバラバラの視点を大事にし、当然厳しい指摘はするんですが、それでも「東宝の未来のためになります」と全力で押し返してくる人の企画をやる。指摘に対して「そうですね」で終わっちゃうならそこまでの熱量だったということ。スタジオジブリの鈴木敏夫さんが「才能を見抜くなんて、神様じゃないんだからわかるわけがない」とおっしゃっていましたが、最後は「人と人」の信頼関係に尽きると思っています。

もう一つの軸だと思っているのが、商業性です。これも、何をもって商業映画とするのか、すごく難しい。私がなんとなく思うのは、そもそもクリエイターに、お客様を意識していない人と、している人がいるということ。この作品を見たお客様に、こういう感情になってほしい、こういうものを届けたいという人と、私はこれが描きたいのだという人の2パターンといいますか。後者の方ももちろん魅力的ですが、そこに終始してしまうと商業的にはなりにくいように感じます。GEMNIBUSでご一緒するなら、お客様がどう思うかという視点を持つことに少しでも共感してもらいたい。それが、二つ目の軸だと思っています。

観客の視点を意識しながら企画を作り上げていくプロセスは、どんな感じなのでしょうか?

比較的自由度高く、一度プロットにしてみることにしています。プロット開発は、半年から一年くらいかけて進めますが、プロット開発を一緒に走ると、クリエイターのスキルや個性が見えてくる。できあがったプロットは、GEMSTONEのプロデューサー全員で揉むこともあれば、担当プロデューサーと私の2人でやることもあります。基本、私は全てのミーティングに入るようにしています。

プロット開発で大切にしているのは?

大事にしているのはテーマです。まずテーマを話し合いましょうと。当初、挙げられるテーマは、「家族愛」みたいな曖昧なものが多いのですが、テーマはさらなる考えを生むものであってほしい。例えば、是枝裕和監督の映画『そして父になる』なら、「家族にとって大切なのは血か。共にいた時間か。」とか。これぐらいまでテーマを掘り下げていきましょうと。ここに監督の個性が出ると私は思っています。噂ではピクサーは2年間かけてテーマを議論するなんて話もありますが、日本の場合、なかなかテーマの議論に時間を割くことが出来ないこともあります。私たちは、オリジナルかつ若手プロジェクトということもあるので、なぜその監督が、なぜ今描くべきなのかと、テーマを議論することにしっかりと時間をかけていきたいと思っています。

制作のスケジュール感は?

プロットと脚本を開発している間に、GEMNIBUSの製作費に対して社内決裁が下り、その予算枠にはめ、逆算してここまでに撮影するなど急ピッチで決まります。プリプロダクションは1カ月ぐらい、撮影は3~5日、編集およびポストプロダクションも1、2カ月ぐらいなので、時間をかけるのはプロットと脚本開発です。オリジナルを作ることがどれだけ難しいか、みんながここで痛感するという感じですね。

オリジナル作品を作るのは本当に大変だと思います。そんなGEMSTONE、GEMNIBUSの次なる展望をうかがってもいいですか?

近よく「A24 を目指すの?」と言われますが、そんな存在になれたらいいなと思います。目標としてはGEMSTONE出身のクリエイターが、10年後に“新海誠監督”のような存在になって東宝に大ヒットをもたらして頂くということですが、プロジェクトとしてはもう少し短期的な利益も求められます。現状の興行形態では、それは難しいので、例えば協賛金を得るとか、GEMSTONEのクリエイターと企業のブランデッドフィルムを作るとか、そういうことも並行して進めています。

ともあれGEMNIBUSは、小規模で小回りが利きやすいので、海外のクリエイターと組むことや海外映画祭への挑戦も大切にしています。今回、ファンタジア国際映画祭に関駿太監督が『ソニックビート』でノミネートされたのですが、vol.1では『ファーストライン』でちな監督がノミネートされています。前回はアニメなのでプログラマーは今回とは違うのですが、「あのGEMSTONEだよね」と映画祭側が認識してくれていたのは嬉しかったですね。
GEMNIBUSで大事なのは、作品が評価され、より多くの人に届いて、監督の評価が上がり、東宝配給で大きく上映されること。それには国際映画祭のように外からの評価も大切です。もちろん、他社で長編を撮ってもらうのもありだと思っています。それでまた東宝戻ってきてくれたら嬉しいです。

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