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『顔のない街』村上リ子監督

Interview

『顔のない街』
村上リ子監督

12歳のときに書いた小説『桃の季節』で田辺聖子賞を受賞。2021年の短編映画『THE NOTES』が全国上映され、中編映画『Fridge』は国内外の映画祭で賞を受賞。本作『顔のない街』を経て、着実にステップアップされている村上リ子監督にとって、GEMNIBUSへの参加とは?

東宝の方々と一緒に盤石の体制でものづくりができる、とても貴重な機会でした。脚本開発、キャスティングなど、様々な局面で心強さを感じると同時に、大変勉強になりました。憧れの場所であるTOHOシネマズ 日比谷での上映の機会も楽しみです。多くの方々に届くことを願っています。

『顔のない街』は、顔を自由に変えられる「フェイスチェンジ」が一般的になった近未来のディストピアを描いた、SFサイコロジカルスリラー。本作のテーマは、現代の美容整形や加工アプリへのアンチテーゼなのでしょうか?

いえ、本作のテーマは「アイデンティティの商品化」です。私自身は、整形自体を否定する気持ちはなく、自己肯定感が上がるならいいのではと思っています。一方で、自身でコントロールができなくなるとまた別の問題。必要以上の整形を勧めるクリニックや、行き過ぎたマーケティングには疑問を感じます。ファッション分野などで叫ばれる大量消費の文脈に、人間の顔やアイデンティティさえも乗ってしまうことの危うさに共感し、ハッとさせられました。原案の西田さんとお会いしたとき、水や土地など自然の中にある畏敬の対象だったものが、ボトリングされたり値段がつけられて商品になったというお話がとても興味深く。人間の顔やアイデンティティも同様に商品化されたとき、アイデンティティや自分らしさとはどうなるのだろう?と考えさせられ、これを膨らませて映画にしたいと考えました。

本作を撮ることになったきっかけを教えてください。

本作には原案があり、「東宝×ワールドメーカー短編映画コンテスト」で大賞を受賞した西田充晴(ペンネーム:奇多郎)さんの『顔のない街』という作品です。“World Maker” は、集英社の「少年ジャンプ+」編集部が開発した、誰でも映像コンテや漫画ネームを作成・投稿できるアプリ。それを使った作品のコンテストで、大賞を受賞した作品を東宝が映画化するという企画がありました。『顔のない街』は設定がとても面白く、ハッとさせられる内容だったので、ぜひやらせていただきたいと思い、これを原案に東宝の山﨑麻衣プロデューサーと相談しながら、脚本を練っていきました。

本作のテーマは、現代の美容整形や加工アプリへのアンチテーゼなのでしょうか?

いえ、本作のテーマは「アイデンティティの商品化」です。私自身は、整形自体を否定する気持ちはなく、自己肯定感が上がるならいいのではと思っています。一方で、自身でコントロールができなくなるとまた別の問題。必要以上の整形を勧めるクリニックや、行き過ぎたマーケティングには疑問を感じます。ファッション分野などで叫ばれる大量消費の文脈に、人間の顔やアイデンティティさえも乗ってしまうことの危うさに共感し、ハッとさせられました。原案の西田さんとお会いしたとき、水や土地など自然の中にある畏敬の対象だったものが、ボトリングされたり値段がつけられて商品になったというお話がとても面白くて。人間の顔やアイデンティティも同様に商品化されたとき、アイデンティティとはどうなるのだろうと考えさせられ、これを膨らませて映画にしたいと考えました。

映像化には、文章とはまた違う難しさがあると思います。映画冒頭の、主人公のミサが乳白色のプールに沈んでいくシーンは、顔が沈むまで肌と水のせめぎ合う様子が象徴的です。

冒頭のシーンは、広い空間にプールを設置し、乳白色のお湯をため、吉田美月喜さんに実際に仰向けで沈んでもらいました。ただ、テストの際に沈むと鼻から気泡が出てしまうことに気づき、時間もなく判断に迷いましたが、思い切って撮影し、気泡の部分はオンライン編集で馴染ませました。完パケを見て、世界観に引き込む素晴らしいカットになっており、撮れてよかったと感じました。

他にこだわった部分は?

脚本開発の中で、どうツイストやどんでん返しを入れるかは、悩んで何度も書き直しました。劇伴は重低音にこだわっており、映画館でないと聞こえない音もあるので、ぜひ映画館の環境で聴いてほしいです。
全体的な色味や美術などで、どのように不気味な世界観を演出するのかにも、かなりこだわりました。「フェイスチェンジ」により同じ顔の人が大量に歩いてくるシーンは、VFXをフル活用して制作しました。観たことのない光景だと思うので、ぜひ観ていただきたいです。

主人公のミサを演じた吉田美月喜さんには、どんなふうに演出をされたのでしょう。

ミサは、フェイスチェンジが普及した社会の中で、一度も顔を変えていない”ナチュラル”。ただどこか様子がおかしく、かなり複雑な心情や背景を持つキャラクター。吉田さんは設定について細かく質問してくださり、丁寧に演じられる方なので頼もしかったです。明るく可愛らしい方ですが、職人肌で勘がよく、こちらが撮りたいものをパッとできてしまう。脚本を面白がってくださり、熱心に準備していただいたと伺いました。ミサのキャラクターは、芯があり、ミステリアス。そんなミサ役を探していました。吉田さんは『ルックバック』の京本役などでも演技の上手な方だと思っていましたが、実際にお会いするとイメージにぴったりで、演技力も想像以上でした。

フェイスチェンジの施術をするレイ院長役の香椎由宇さんはいかがでしたか?

存在感が素晴らしいです。いい意味で、立っているだけで不気味さを醸し出せる。不気味なほどの美しさ。香椎さんにしか出せない説得力がありました。小学生の頃、テレビドラマでいつも拝見していた香椎さんはクールに見えましたが、現場でお会いする香椎さんは優しくお母さんのようで、とてもお茶目でキュートな方でした。そのギャップに魅了されました。ディストピアな設定でありながら、とても和やかな現場でした。

フェイスチェンジを躊躇する主人公の心のせめぎ合いを、演出的にどう伝えられたんですか?

まず設定について、フェイスチェンジをしているのが当たり前の社会で感じる同調圧力を意識してもらいました。学生時代は特に、友達と同じでないといけないような感覚に襲われます。それをランドセルの色や、みんなで顔をおそろいにしようというシーンで表現する、と説明しました。フェイスチェンジをしていないミサは、自分に自信がないわけではない。でも人と違っていいのだろうかと揺れています。

「顔はね、牢獄だったと思う」という印象的な台詞について聞かせてください。

他者は顔を見て、イメージのレッテルを貼ります。例えば、私は「喋る前と後で印象が変わる」とよく言われます。まったく違う顔ならまた全然違う印象を持たれるでしょう。顔の印象によって内面の一部が否定され、発言の受け取られ方も変わってくる。服装は着替えれば変えられるけど、顔は簡単に変えることができない。顔は牢獄のような側面を持っていると感じます。

村上監督が考える、これからの映画、または新しいエンタメ像をお聞かせください。

AIの精度が上がり、かなりクオリティの高い映像が作れてしまう。だからこそ、作家の癖(へき)のようなものが求められ、残っていくのではないかと思います。また、その場に行かないと体験できないこと、時間をかけないと作れないもの、再現性がないものが大切になっていくのではないかと感じます。映画館での体験も、約2時間スマホを見ずその作品だけに集中する体験というのはある意味貴重になっていくので、その一つになるといいなと思います。

小説家、脚本家、プランナーとして仕事をされ、でも映画監督を目指されたのは?

映画監督を目指したのは、未来に作品を残せる職業だと思ったからです。大学時代によくTSUTAYAに映画のDVDを借りに行っていて、生まれる何十年も前に作られた作品が今もアーカイブされて観られているというのは、とても夢があるなと思いました。自分も同じように作品を未来に残したいと思い、映画監督を目指しました。これを映画として残さないと、生まれた意味がない。生きているうちに、そう思えるものを撮りたいです。

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