GEMNIBUS
Interview
『You Cannot Be Serious!/
ユー・キャノット・ビー・シリアス!』
大川五月監督
※一部、本編のネタバレを含みます。
ニューヨークの大学院映画学科の卒業制作が海外の映画祭で好評を博し、帰国後に撮った短編、長編でも高評価を得ました。その後、出産・子育てなどによるブランクを経て、無意識の偏見と妊娠やキャリアをテーマとした『You Cannot Be Serious!/ユー・キャノット・ビー・シリアス!』を発表。今、このテーマで撮った経緯をあらためて教えてください。
子どもが1歳のとき、企画コンペのために書いた2本のプロットの1つです。妊娠がわかったとき、実はキャリアを考えて少し悩み、高齢出産だったこともあって産む選択をしました。そのときのビビッドな不安や子どもができたと知った女性の心情を、人種の話と絡めて書いたのがこの作品です。復帰まで8年もかかってしまったので、このGEMNIBUSというチャンスには、感謝しかありません。
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の話も実体験です。うちの夫は白人で、子どもはハーフ。現在、日本在住ですが、日本社会は結構、白人に対して優しい(笑)。たとえば私が頑張ったことも、夫に称賛が行くとか。アジアはおおむねそうらしいですけど。そんなときブラック・ライブズ・マターが起きました。私が映画を学んだのはニューヨークだったので、黒人の友だちも多く、SNSなどで彼らの活動を見ていても感じたモヤモヤを、アジア人の白人に対するアジア人の角な憧れの形で描いたわけです。
出産、子育てで何年間か活動が難しくなってしまった女性が見ると、ものすごく共感されるのではないでしょうか。
でも女性だけに向けた話にはしたくありませんでした。妊娠、出産期はホルモンバランスの崩れなど、思い通りにならないことがたくさんあります。それを男性にも知ってほしい。ポップな色づかいにしたのも、コメディタッチで作ったのも、いろいろな人が“見たいと思う入口”を作りたかったから。気づきを促したいときや社会的な問題を描くときは特にコメディを使うべきだと思っています。
黒島結菜さん、浅野温子さんのポップさも作品をけん引しました。お二人には演技やテーマについてどのようなお話をされましたか? 起用のきっかけも含めて教えてください。
黒島さんはプロデューサーさんのアイデアです。朝ドラ出演俳優ですし、正直受けてくれないだろうと思っていたので舞い上がりました。初めてお会いした黒島さんは、ものすごく子育てにポジティブで、悲愴感なんて全くなし。私は苦しんだときもあったので衝撃的でした。お会いした後、産むの産まないのと悩んでいた主人公・菜摘の性格を、あっけらかんとしたものにしたのも、コメディに寄せることができたのも、黒島さんのおかげです。
浅野さん演じる母の登紀子は、ハーフだと聞くと当然のように白人とのお子さんだと思い込み、事実を知ると「かわいそう」だと言います。まさにアンコンシャスバイアスですね。
浅野さんも、主演ドラマ「沙粧妙子-最後の事件-」が大好きだったので、出てくださるとは思いも寄らなかったのですが、オーケーしていただいたあと、厚かましくもお目にかかり、価値観について話し合いました。登紀子のキャラクターは、娘さんが黒人のパートナーさんとの子を出産した、母の知り合いにヒントを得ました。その方が、生まれた孫を「“でも”可愛いのよ」と言ったときの驚き。無意識の偏見ですね。登紀子も、孫を愛してやまないし、「かわいそう」も本人は愛を込めてのつもり。浅野さんとは、こちらの価値観を押し付けることのないよう、たわいのない話をするなかで登紀子の心情を見つけていただきました。演出にあたっては、微妙なラインを踏み外さないように気を付けましたが、お二人の人柄もあって、私の復帰作はおかげさまで笑いの溢れる現場になりました。
このテーマでポップに描いた映画は見たことがなかったので、どんなラストを迎えるのかワクワクしました。
最初は、将来を不安に感じる菜摘が遠くを見るみたいな終わり方だったんです。撮影中もそう撮ったのですが、編集時に、子どもを抱きあげ、微笑む菜摘のショットを見つけて、ラストショットはこれにしようと変えました。あれはアクションをかける前に、お子さんのいる黒島さんが、赤ちゃん役の子をあやしてくれていたショット。編集室で「救われた!」と思いました。
映画全体の色彩もあいまって温かい気持ちになりました。
美術の愛甲悦子さんもママさんですごく楽しい方。とにかくポップな画にしたいと、インスタとかで見かけたかわいい部屋のイメージを、衣装の大関みゆきさんも含めてバンバン送って考えていただきました。人にも色を配して、黒島さんはトリコロール、浅野さんは茶色系のアニマルプリント柄、それらが混ざる形で成立するポップな世界を作ってもらいました。
すべての登場人物の特徴が際立ち、キャラクターの意図が伝わりやすかった理由がわかりました。短編という限られた時間の中で、こだわった演出、苦労して削ぎ落とした部分はありますか?
最初は、産むまでの葛藤を描こうとしていましたので、レオナルド君と名付けた育児トレーニング人形はいませんでしたが、レオ様人形を思いついたことで、コメディ的に随分救われました。削ったのは、菜摘が迷うシーン。テンポが悪くなるだけでなく、それが続くと菜摘に共感できなくなる。スパッと切ったおかげで彼女のキャラクターも活きたと思います。
これからの映画、新しいエンタメに必要なことは何だと思いますか?
やっぱり、お客さんを信じることじゃないですか。最近、アニメも実写も説明が多いような。気持ちを説明したいのはわかるけど、私はお客さんの感覚を信じたい。石を投げれば波紋が広がり、少しずつ伝わっていくみたいに。こう言ってヒットしなかったら「すいません」という感じですが(笑)。
スマホやPCでも映像が見られる時代に、あえて映画館のスクリーンと音響で体験してほしい理由は?
私が、スクリーンで映画を見たいのは、笑いを一緒に体験したいから。それに一体感。以前、ニューヨークで『セッション』を見たとき、エンドクレジットがあがった途端、全員が一斉に拍手喝采したんです。もう鳥肌ものでした。
この作品を、どんな状況にいる、どんな方に届けたいですか?
出産にまつわる不安は、人生のセカンドステージに行く不安とともに、子育て中に社会から隔離された気持ちになる怖さもあるんです。英語を話せなかったときの感覚にも似ていて、アイデアも、意思も、意見もあるのに、言葉が伝わらないことで、周囲が認識してくれずまるでいない者のようになってしまう。そういう状況を経験した人。私はここにいると叫び、引かずに前に進みたいと思っている人に見てもらえたらと思います。